日本で唯一の「天気痛」専門の外来を行っている、愛知医科大学客員教授「天気痛ドクター」佐藤純先生が書かれた本をご紹介します。
● 気象の変化によって持病が悪化することを、医療現場では「気象病」と呼んでいた。その中でも、特に痛みや、うつや不安といった心の病にまつわる病気を「天気痛」と名付けた。ゲリラ豪雨や度重なる台風など、地球の気候は激しさを増すばかり。私たちの体は、かつてないレベルで適応力が求められている。例えば「雨が降る前に古傷が痛む」というと、昔は年齢を重ねた方の症状に思えたものだが、最近では働き盛りや若い世代にも、天気の影響で不調を訴える方が増えてきた。
● ドイツでは、古くから天気と持病の関係の統計学的な研究がなされてきた。天気予報と同時に「今日はこういう天気だから痛みに気を付けて下さい」「心臓病の方は要注意です」と発表される。
● 天気痛よくあるQ&A
Q 「天気痛」とはどんな病気ですか?
A 天気の変化で、痛みや気分障害が起こる病気です。頭痛、めまい、気分障害など、その人がもともと持っていた症状が、天気の変化で顕著に表れる状態を指します。医療現場ではもともと「気象病」と呼ばれていましたが、中でも特に痛みや気分障害にまつわるものについて、「天気痛」と名付けました。
Q 昔からある病気なのですか?
A 古くは、なんとギリシャ時代にまで遡ることができます。
Q どんな症状が表れますか?
A 眠気やめまい、古傷が痛むなど多岐にわたります。不眠やうつなど精神の不調も。天気の変化とともに、体調が悪化するのが特徴です。多いのが、乗り物酔いのようなめまい、ぼうっとしたり眠気がする、気分の落ち込み、頭痛、持病や古傷の痛みがうずくといった症状です。
Q 症状が出る人に年齢や性別の違いはありますか?
A めまいや痛みなどの自覚症状がある方は、女性が多いという報告はありますが、年齢はあまり関係ありません。男性も潜在的な患者がいると思われます。男性の場合、性格的に我慢しがちな傾向がありますので、「天気痛かも?」と自覚することから始めましょう。
Q 季節によって症状の出方は変わりますか?
A 天気の変化が激しいほど、めまいや痛みなどの症状が起きる可能性が高くなります。要注意なのは、天気が変わりやすい春や、低気圧の続く梅雨、台風の多い秋などです。逆に天候が安定している冬は、症状が軽いのが特徴です。
Q 気圧が下がる時だけ、症状が表れるのですか?
A 低気圧で具合が悪くなるイメージがありますが、実は気圧が上がる時も、体内では自律神経の変化が起こっています。人によっては、上がる時も要注意です。
Q 完治はするのですか?
A 「天気痛」の捉え方にもよりますが、日常生活に支障をきたさなくすることは不可能ではありません。天気によってその人が持つ疾患が反応するものですので、そもそもの病気が治らない限りは、完治とはいえません。個の疾患を、天気の影響から引き離し、痛みなどの発症を抑えることが治癒になります。
Q なぜ発症するのですか?
A 気圧が下がったり上がったりすると、内耳は変化に対応しようとします。その結果、交感神経の活動が活発になり、心拍数や血圧が上がり、そもそも持っていた痛みがさらに激しく感じられたり、めまいが起きたりすると考えられています。
Q どういう人が発症するのですか?
A 内耳が敏感な人が多いですが、ケガや事故をきっかけに発症するケースも見られます。人間の耳の奥には、外部からの気圧の変化を調整するセンサーのような部分があります。天気痛になる人は、この内耳のセンサーに何らかの刺激が加わっていたり、そもそも内耳自体が敏感な体質であることが、最近の研究でわかってきました。
Q 薬以外で効くものはありますか?
A 漢方薬のほか、ツボ押しや温灸もおすすめです。日常生活が困難になるほどの激しいめまいや不調、痛みには薬を用いた対処療法を行いますが、自律神経を整えるという観点からは、漢方薬もおすすめしています。
● 天気痛を引き起こす原因になる内耳の中を流れるリンパ液の滞りや、自律神経系の乱れを整えるための一策として、漢方薬の使用もすすめている。
・五苓散(ごれいさん)・・・体内の水分の巡りを整える漢方薬。人によってはお手洗いの回数が増えたり、むくみが取れたりする。下痢止めにもなる。
・抑肝散 (よっかんさん)・・・リラックス効果が高い。痛みの予防にはもちろん、高ぶった気持ちを静めるのに大変効果的。不眠で悩まれている方は、睡眠薬を使われる前に試してみるとよい。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)・・・体力が弱っている方や、しもやけができてしまうような冷え性の方を温めてくれる。寒冷じんましんの症状にも効く。筋肉の血流が悪くて頭、背中、腰に痛みが出ている場合にも処方する。
・半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、柴苓湯(さいれいとう)・・・体内の水分を調節し、むくみを取る効果がある。
● もう一つの選択肢としておすすめなのが、体の経穴(ツボ)刺激である。気分が悪くなり始めたときに刺激する。両手首の内側にあるしわの真ん中から、ひじ方向に指三本分下がったあたりに、響くような感覚があれば、そこが“内関”というツボ。もともと“内関”は酔い止めに効くツボなので、ふらつきやめまいがある天気痛の方は、症状が表れそうだと思ったら刺激すると良い。“内関”は左右の腕、どちらにもある。しかし、ツボには左右差があるので両方の場所を探してみて、特に痛さや重だるさを感じるほうを主に刺激すると良い。つまようじの根元を使ってつんつんと刺激を繰り返えしたり、磁気テープを貼るのもおすすめ。一粒のお米を“内関”にあてて上から絆創膏で固定してもツボ刺激になる。絆創膏の上から“内関”を押して、何度もツボ刺激を繰り返す。
● 天気痛治療について、「根治にならない。所詮は対処療法にすぎない」という意見もある。確かに天気痛自体は特定の病気ではないので「根治」という考え方からは、少しずれてくると思っている。しかし、天気から受ける影響を少しでも減らし、痛みや発作で寝込んだり、学校や仕事に行けなくなってしまうような回数を減らすのが重要なのである。肉体と精神をマイナスの状態から普通の状態へ、さらに毎日を前向きに過ごせる状態へと持っていくことこそが、それぞれの病気の根本治療に繋がると思っている。古くから人間が振り回されてきた天気。「たかが天気、されど天気」である。気象や自分の不調と上手につきあっていこう。「健康とは自分から積極的に取りに行くもの」である。
このような、原因も症状も数値化できないような難しい現象を研究してくれるドクターの存在は貴重だと思います。見た目には分かり辛い症状が多く、周囲の理解を得ることもなかなか難しいので、権威ある先生が情報を発信してくれることによって気持ちが楽になる方はたくさんいるだろうなと思います。
それにしても、昨今の気候の変化による体への負担は無視できないと感じています。定期的な鍼灸治療で症状改善された方もいらっしゃいます。
気候の影響を軽減させるために体のメンテナンスをぬかりなく!!