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人は誰もが「寿命の回数券」を持っている


東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生の著書「腸をダメにする習慣、鍛える習慣」より、“テロメア”のお話を抜粋させていただきます。

人は誰もが「寿命の回数券」を持って生まれています。「定期券」ではなく「回数券」です。人生の長さは定められたものではなく、自分が「寿命の回数券」をどのように使うのか、その使い方しだいで決まるのです。

「寿命の回数券」とは、細胞内にあるテロメアと呼ばれる構造体です。

私たちの体は、約60兆個の細胞からできています。それぞれの細胞は、核を持ち、核の中には46本もの染色体が入っています。この染色体は、遺伝情報を担うDNAによって形成されています。

DNAは二重らせん構造を成すとても長い物質ですが、特定のたんぱく質に巻きついて、最終的に英字のX状の生体物質になります。これが染色体です。染色体の末端には、テロメアが鞘のようにかぶさっています。染色体がほどけて不安定化が起こらないよう、守っているのです。

このテロメアこそが、人間の寿命を決定づけています。

人間のテロメアは、誕生時には約1万塩基対ありますが、毎年平均して50塩基ずつ短くなっていきます。これが約5000塩基対まで短くなったとき、細胞は死滅します。細胞の寿命が尽きれば、やがて人の寿命も尽きます。

1万塩基対のテロメアが5000塩基対になるまで、年50塩基対ずつ減少すると計算すると、100年かかります。つまり、人は誰もが100歳の寿命を持って生まれついていることになります。

ではなぜ、100歳を待たずに多くの人が亡くなっていくのでしょうか。このテロメアの短縮のスピードが、人によって異なるからです。

これが、テロメアを「寿命の回数券」と呼ばせるゆえんです。テロメアは自分の使い方しだいで短縮のスピードは速まりもし、ゆるやかにもなります。そして、短縮のスピードをできる限り遅らせることができれば、100歳の寿命を最長125歳まで延ばせるのです。

それでは、どうすることが「寿命の回数券」を上手に使うことになるのでしょうか。

テロメアが短縮するのは、細胞分裂のときです。私たちの体を構成する60兆個の細胞のうち、毎日約2パーセントの細胞が新しく生まれ変わっています。その数とは、1兆2000億個という膨大な数です。今この瞬間にも、古く劣化した細胞が死に、新しい細胞に入れ替わるという作業が、次々に私たちの体内で繰り返されているわけです。

そうやって細胞分裂を繰り返しながら、私たちの体は生命を維持しています。しかし、そのたびにテロメアは短くなっています。このテロメアの短縮は自然現象であり、万人に等しくもたらされるもので、防ぐことはできません。ただ一方で、個体差が大きく現れる短縮の仕方があります。それは、病気による細胞分裂です。病気によって死滅した細胞を補うときに、細胞は分裂を速めます。肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病は、細胞が死滅しやすく、分裂を速める病気です。

生活習慣病になると寿命が縮まるのは、病気がテロメアを減らしてしまうからだったのです。

「寿命の回数券」を上手に使うには、腸内細菌を元気にすることです。多くの病気は、腸内細菌のバランスの乱れから生じます。病気を予防し克服する力となる免疫の約70パーセントを、腸内細菌が決めているからです。

腸内細菌が数を増やし、腸内フローラを整えるような食生活を送っていれば、免疫が増強され、病気を防ぐことができます。すなわち、「寿命の回数券」の上手な使い方とは、本書で紹介していく腸を大事にする生活術を日々実践していくことなのです。

また、活性酸素もテロメアの短縮を進めてしまう物質です。テロメアを形成しているのは、DNAとタンパク質です。活性酸素は、テロメアのDNAを分解し、タンパク質を酸化させて、壊してしまいます。活性酸素を大量に浴びるたびに、テロメアの短縮はどんどん進みます。体内の活性酸素量を増やすことは、寿命を短くすることに直結するのです。

ですから、テロメアを守るには、体内で活性酸素が発生するような行為を避けること。それとともに、活性酸素の害を消すような食物を食べること。この二つも重要になってきます。これは、腸内細菌を活性酸素の害から守る行動に重なります。腸内細菌も、活性酸素を浴びると大きなダメージを受けてしまうからです。

つまり、腸内細菌を守る生活は、そのままテロメアの短縮をゆるやかにする生活になるのです。

ただし、テロメアと腸内細菌の違うところがあります。一度の不摂生や病気により両者に甚大なダメージを与えてしまったとしましょう。腸内細菌の場合、それを克服すれば、腸に残っていた細菌たちががんばって働きだし、再び数を増やしていきます。しかし、テロメアは一度短縮し、消滅したものを、再生させることができません。一度使った回数券は、再び使えないのと同じです。

医者として恥ずかしながら、私も糖尿病を患ったことが二度もあります。現在は、糖質制限食を実践することにより、血糖値も中性脂肪も正常値に治まり、体重も10キログラム減って適正体重をキープしています。しかし、その二度の大病の際に、テロメアの数を大きく減らしてしまったと自覚しております。

また、若かりし頃、研究に熱中して徹夜をし、ストレスから逃避したい脳を満足させるために暴飲暴食を繰り返してしまったことがあります。テロメアの存在がまだ知られていなかった時代の話ですから、しかたがないといえばそうなのですが、あの頃にも、私はテロメアを短縮させていたはずです。

その反省から言わせてもらえば、不摂生は活性酸素を大量に発生させる悪習です。テロメアの存在を無視して「一度くらい大丈夫だろう」と食生活を乱せば、そのぶんテロメアが短くなります。そのテロメアは、高齢になって後悔したところで、取り戻すことはできません。

今後、私はテロメアを慈しむようにして、「寿命の回数券」を大事にする生活をしていきたいと思っています。人生125年と思えば、まだまだ行いたい研究を思う存分できる気がしてきます。ともに長寿人生をエネルギッシュに謳歌していきましょう。

― 以上抜粋

テロメアのことを知ったときはとても驚きましたが、考えてみれば「昔から注意されてきたことは正しかったんだ」ということが科学的に解明されただけなんですよね。命の長さをロウソクで表現していた漫画って多かった気がするのですが、そのロウソクがテロメアと重なって思えてきます。 大人はもう遅い?としても(笑)これからの子どもたちにはこういった事実を教えておくといいだろうなと感じています。


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