日本人女性の乳がんは30代から増えていて、10代の頃の食の欧米化が大きく影響しているという調査結果がでているそうなのでご紹介します。やはり、以前から言われている通り大豆のイソフラボンが女性を助けることも間違いないようです。
欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 奥田昌子 著
●日本人の乳がんはどう違う?
近年、乳がんになる日本人が増えています。1990年代後半に胃がんを抜いて、女性が発症するがんの第一位になりました。
2012年の統計によると、乳がんは30代から増加が始まって、40代なかばと60代なかばに二つのピークができています。乳がんは、他のがんとくらべて若い世代で発症する人の割合が高いのです。
これは、欧米人の乳がんと日本人を含むアジア人の乳がんの最大の違いでもあります。欧米人は閉経をむかえてから乳がんになる人がほとんどで、発症年齢のピークは60代後半の一つだけです。
オーストラリアが60代後半まで発症率が上がり続けるのに対し、日本、香港、タイは40代なかばで発症率が頭打ちになります。つまり、見かたを変えると、日本は50代以降の乳がんの発症率が極めて低いということです。
それなのに20~40代の若い日本人の乳がん発症率が欧米なみなのは、アジア人と欧米人の乳房の違いによると言われています。女性の乳房のおもな成分は、脂肪と乳を作るための乳腺で、脂肪とくらべて乳腺の割合が高い乳房は、脂肪の割合の高い乳房とくらべて4~6倍乳がんになりやすいことが示されています。乳腺の割合が高いタイプの乳房を持つ女性は欧米では40%しかいないのに対し、日本は80%にのぼります。これが、若い日本人女性に乳がんが起こりやすい大きな原因になっています。なお、胸の大きい・小さいは乳腺の割合とは直接関係ありません。
閉経をむかえると乳腺が小さくなって脂肪に置きかわるため、乳腺の割合は低くなります。ところが日本人は、閉経を過ぎても乳腺の割合が高いままの人がいて、こういう人は乳がんになりやすい状態が続きます。高齢女性を対象に日本で実施された調査でも、乳腺の割合が高いままの人は、そうでない人とくらべて乳がんの発症率が約3倍高いことがわかりました。
●食生活に関する重要な手がかり
国立がん研究センターが発表した2016年の全国推計値によると、乳がんの発症率は東京都が突出しています。都市部では食生活を含む生活習慣の欧米化が進んでいることから、日本全体で乳がんの発症率が上がっている原因として、とくに食の欧米化が考えられています。欧米風の食事で本当に乳がんが増えるか確かめるために、大規模なコホート研究がおこなわれました。日本人女性約5万人について、どんな食事をしているか調べたうえで、その後15年間に、どういう人が乳がんになるか調査したのです。このとき、女性たちの食事内容を、魚や野菜、果物、大豆製品などを多く摂取する「健康型」、肉類、乳製品、パン、コーヒーなどが食卓に並ぶ「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物などが中心の「伝統型」の3つに分類しました。
すると、欧米型の食事をする頻度が最も高いグループは、最も少ないグループとくらべて、乳がんの発症率が1.3倍になることがわかりました。健康型と伝統型の食事は、食べる回数が増えても乳がんの発症率が変わりませんでした。つまり、和食と健康的な食事を食べている分には心配ないが、欧米食を多く食べると乳がんになりやすくなるということです。
米国の調査から、10~17歳くらいの少女期に脂肪分の多い食事を取った人は、その後の乳がんの発症率が上がるという結果が得られました。正常な細胞に異常が起きてから、実際に乳がんを発症するには10年以上かかるのが普通と考えられています。乳がんは30代から増えるがんなので、これをもとに計算すると、10代の生活習慣が鍵を握っていてもおかしくないでしょう。これまでの調査ですっきりした結果が得られなかったのは、成人してからの脂肪や乳製品の摂取と、乳がん発症の関係を見ていたからかもしれません。
●食の欧米化の本質は
欧米式の食事を続けることで起きやすい肥満と乳がんの関連については、日本と欧米で正反対の結論が出ています。欧米の研究では、若い女性は肥満気味のほうが乳がんになりにくく、閉経を過ぎたら、やせているほうが発症率が低いというのが定説です。
ところが、日本人女性合わせて18万人のデータを総合的に分析したところ、不思議なことがわかりました。日本人は年齢を問わず、肥満になると乳がんの発症率が上がるのです。閉経前の若い世代を含めて、体格指数(BMI)が普通体重を超えると乳がんの発症率が上がり、最大で2倍以上になりました。
肥満が乳がんの発症率を押し上げるのは、女性ホルモンが卵巣だけでなく皮下脂肪でも作られるからと考えられています。女性は、女性ホルモンのおかげで内臓脂肪がつきにくく、代わりに皮下脂肪がつくようにできています。その皮下脂肪が女性ホルモンを作るのですから面白いですね。
若い女性がダイエットのやり過ぎで生理が止まってしまう背景にも、皮下脂肪の減少による女性ホルモンの不足があります。また、たっぷり肥満した男性の乳房がふくらむことがありますが、これも皮下脂肪での女性ホルモンの産生が高まるからです。このように、脂肪細胞にも女性ホルモンを作る力があるので、肥満の人は女性ホルモンの産生量が多く、これが乳がんの発生を促してしまうのです。
この現象は日本でも欧米でも認められますが、日本では、若い世代も肥満によって乳がんが増えるのに対して、欧米では、若いあいだは肥満気味のほうが良いとされています。この原因はわかっていません。
体重だけでなく、身長も乳がんの発生に関係します。閉経前、閉経後のいずれにおいても、背の高い女性は乳がんになりやすいことが明らかになっています。日本でおこなわれた調査によると、身長が160cm以上のグループは、148cm以下のグループより、閉経前は1.5倍、閉経を過ぎると2.4倍、乳がんの発症率が高くなります。体格は遺伝が大きいものの、生まれてからの食事内容と、女性ホルモンや成長ホルモンの分泌量の影響を受けます。
乳がんが少なかった1960年と、乳がんが増えてきた2005年のデータを比較すると、肉と乳製品に代表される動物性蛋白質の摂取が大きく増えています。
成長期にある女性の身長の変化を見てみると、伸び方が違ってきています。1950年にはおだやかに伸びていたのが、1975年、2005年には、10~14歳の食べ盛りの時期に、ぐっと大きくなっています。
日本はカロリーの総摂取量は増えていません。増えたのは動物性蛋白質の摂取量で、これにつれて成長ホルモンと性ホルモンが、早い時期からしっかり分泌されるようになったと思われます。
初潮をむかえる年齢は、1961年から半世紀のあいだに約1年早くなりました。乳がんは女性ホルモンの影響を受けて増殖するものが多いため、初潮が早いほど、そして閉経が遅いほど、乳がんの危険が大きくなることが知られています。日本でおこなわれた大規模コホートからは、16歳以上で初潮をむかえたグループの乳がんの発症率は、14歳以前にむかえたグループの約4分の1だったことが示されています。
閉経年齢と乳がん発症率の関係を調べたデータによると、閉経が早いグループほど発症率が低く、54歳以上で閉経したグループは、48歳未満で閉経したグループとくらべて、乳がんに2倍なりやすくなっています。また、出産経験のない女性は、女性ホルモンがしっかり出ていのる期間が長くなる分、やはり発症率が上がります。
さらに、子供を産めば産むほど、そして最初の子を低い年齢で産むほど、乳がんになりにくくなります。子供を5人以上産んだ女性は、子供が1人だけの女性より、乳がんの発症率が約60%低くなるという報告があります。
そして、22歳になる前に最初の子を産んだグループとくらべ、30歳以上で産んだグループは、乳がんに2倍以上なりやすいこともわかりました。
●東アジアの女性を守る「ある食べ物」
動物性蛋白質の摂取量の増加に代表される食の欧米化によって、日本人女性の性的な成熟が早くなりました。ここに、晩婚化や少子化の影響が重なることで、乳がんが増え始めたと考えられます。
時代が変われば、女性の生き方、考え方が変わるのは自然なことです。また、食生活の変化は良い面も悪い面もあります。動物性蛋白質の摂取が増えたことで、日本人の血圧が下がり、脳出血が減りました。こんななかで、一人一人が身を守るにはどうしたらよいでしょうか。幸い、乳がんを予防するためのヒントがいくつか明らかになっています。その一つが大豆と大豆製品です。
大豆に含まれるイソフラボンは化学構造が女性ホルモンに似ています。そのため、女性ホルモンが結びつく受容体という構造に女性ホルモンの代りに結びつき、女性ホルモンの作用をじゃますることで乳がんを予防すると考えられています。日本とアジアの他の国でおこなわれた研究からは、大豆製品の摂取により、乳がんの発症率がおおむね30~40%下がることが報告されています。
これ以外にもさまざまな効果が確かめられており、本書でも、イソフラボンを多く摂取するとインスリンの効き目が良くなること、脳梗塞と心筋梗塞の発症率が下がること、骨からのカルシウムの流出が少なくなることなどを見てきました。
しかし、女性ホルモンの受容体にイソフラボンが結びつくと受容体を刺激することになって、逆に乳がんが起きやすくなるのではないかと心配する声もありました。そのため日本で大規模な調査がおこなわれ、血液に含まれるイソフラボンの濃度をもとにイソフラボンの摂取量を推定して、乳がんとの関連を調べました。参加者をイソフラボンの摂取量により4つのグループに分けて比較したところ、摂取量が多いほど発症率が低くなりました。摂取量が最も少ないグループとくらべると、イソフラボンを最も多く摂取しているグループは、乳がんの発症率がなんと約3分の1になっています。
イソフラボンを最も多く摂取していたグループでも乳がんの発症率が下がったのですから、食事から摂取する限りは、イソフラボンで乳がんの発症率が上がることはなく、その逆に乳がんを防ぐ効果があるのは間違いないと考えられます。
ただし、サプリメントで大量に摂取した場合の効果と安全性については、完全にはわかっていません。
イソフラボンはほぼ大豆にだけ含まれる成分で、日本人はイソフラボンの90%以上を、大豆、豆腐、みそ、納豆から摂取してきました。安易にサプリメントに頼るのではなく、食品からの摂取を心がけたいものです。
●乳がんを招く生活習慣
ここ数十年のあいだに日本で起きたのは、食生活の変化だけではありません。
交通機関が発達したことで歩く機会が減っています。運動不足で乳がんが増えるという報告は、日本でも欧米でも提出されており、日本人女性5万人を対象にした調査からは、とくに閉経後の女性がスポーツや運動を週に3回以上おこなうことで、乳がんの発症率が30%くらい下がることが示されました。大腸がんも同じでしたね。日本人で運動による予防効果が確かめられているのが、大腸がんと、この乳がんです。
もう一つ。日本人の乳がんによる死亡率は、現在もなお、欧米より、はるかに低い水準にとどまっています。ところが、欧米の大部分の国で死亡率が下がり始めているのに対し、日本は逆にじりじり上がっています。
乳がんが30代から増加することが十分に知られておらず、若い世代の受診率が低いのが問題です。乳がんが増えている現代社会において、日本人女性が乳がんから身を守る第一歩は、2年に1度、できれば毎年、乳がん検診を受けることです。
― 以上抜粋
欧米の女性とアジアの女性では違うのだということが今まであまり言われてこなかったので大変参考になるかと思います。アジアの女性において、10代の食事が後に及ぼす影響について書かれていましたが、疑問に思っていた最近の若年層の乳がん発症の増加について、うなずけるところがありました。日本人にあった食生活を意識していきたいと思います。
やはり、元気な高齢者の方々は、基本はご飯に味噌汁なんですよね・・・。今の若い人達が心配です・・・。